B・J・ネイルパフ A・M・ブランデンバーガー
日本経済新聞社
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以前よりゲーム理論は単純に興味から大好きでいろいろな本を読んできましたが、この本はその中でもトップクラスです。数式も一切出てこないし、いろいろビジネスの事例を紹介しながら理論を紹介してくれるので本当に楽しめました。その中でも抜群に面白かった例を紹介します。
ビジネススクールにおいて、アダムはMBAコースの26人の学生と、あるカードゲームを行っている。アダムは26枚の黒のカードを持ち、そのうえで、それぞれの学生に、1枚ずつ赤のカードを配った。学部長は、寛大なことに2600ドルもの賞金を提供してくれている。詳しくいうと、その学部長は、アダムであれ学生であれ、黒のカードと赤のカードとの1枚ずつのペアを作って提出したものに、100ドルの賞金を与えるとしているのである。
これがゲームの構図である。アダムと学生とは、自由に交渉を行ってよい。ただ1つの条件は、学生が団結して、団体で交渉を行ってはいけないということである。どの個人と個人も、1対1で交渉を行わなければならないのだ。結果はどうなるか。
結果は、アダムが1300ドルを得て、26人の学生はそれぞれ50ドルを得ます。典型的なゼロサムゲームで総額は2600ドル。このゲームは一見1対nのゲームのようであり、アダムに交渉力があるように見えますが、実際は1対1のゲームが26個あるだけで、26個のゲームにおいて交渉力も対等です。したがって、26個のゲームで100ドルを半分に分け合う結果になります。
ここからが面白いのですが、アダムが取った交渉の手段は「3枚の黒カードを捨てる」というものでした。3枚捨てると全体のパイは2300ドルと300ドル少なくなります。しかし、これは1対nのゲームとなり、n同士(26人の学生同士)で競争が生じます。つまり、3人の学生は1ドルももらえないという状況になり、26人の学生は我先に交渉を終わらせようとします。そうすると、アダムは26人の学生に対し強い交渉力を持っているので「赤カードを10ドルで買い取る」というような有利な条件で交渉することができます。学生の立場からはゼロに比べたら10ドルでも貰ったほうが得なので。その結果、90ドル×23ペア=2070ドルをアダムが得ることができます。
あえて全体のパイを減らすことでゲームのルールを変えるというこのやり方は、ビジネスの世界でも例があります。この本に載っていた例は、ファミコン時代における任天堂とトイザラスの交渉でした。5F的にはBuyerの力が大きくなると、より大きなBuying Powerを持つことになります。当時、トイザラスはかなり規模を拡大しており「大量に仕入れるから値段を下げろ」という要求を各メーカーにしていました。任天堂にとっても大きな顧客であるトイザラスは利益を取り合う「競合」でした。そこで任天堂がとった戦略は「あえてソフトの供給量を下げる」というものでした。ライセンスの保護チップの生産量によって供給量をコントロールし、供給不足を戦略的に作り出すことにより、任天堂はトイザラスに対して「定価でなければ売らないです」と交渉力を持つことができました。ゲームの構造は26枚のカードゲームと似ています。
いつもそうなのですが、ゲーム理論に関して考えると世界が違って見えます。家庭での何気ない会話(例えば、お皿どっちが洗う?)も交渉だと感じて、今どちらに交渉力があるのか、どうやったらゲームが変化するのかと考えてしまいます。面白い理論です。この本、まだまだ書き切れないくらい面白い理論や事例が載ってます。とてもお勧めの本です。